정책칼럼

安全通貨としての円について~為替レートの変動メカニズムにおける循環論の検証(その5)~(22-8-24)/橋本 将司. IIMA

jn209 2022. 8. 31. 16:11

 ➢ 本稿では、ドルの循環的変動であるドルサイクルとドル円相場の関係を考察する手掛かりとして、円相場の循環的変動の重要な要素となる、安全通貨としての円の動向やその背景要因などについて検証した。 ➢ 円の名目実効為替レートは、米株価指数や米 10 年金利と逆相関の関係があり、 円はスイス・フランなどと共に、主要な安全通貨の 1 つとみることができる。 ➢ 円とスイス・フランは頑健な対外バランスなど、経済ファンダメンタルズ面で安全通貨としての素養を備えているが、両者に最も特徴的なのは、低インフレと低金利であり、これを背景に円などを調達通貨としたキャリー取引とその巻き戻しなどの動きが、両者を安全通貨としている主因とみられる。 ➢ 円は、2000 年代半ば以前はドルの変動の主要な受け皿通貨の傾向が強く、ドルと の連動性を高めて安全通貨としての傾向が強まったのは 2000 年代半ば以降だ。 ➢ この 2000 年代半ばの前後において、対外バランスなど日本のファンダメンタルズには大きな変化は無い。一方、グローバリゼーションの進展や資源価格の上昇などを背景に経済状況が改善した資源国・新興国の金融資産が有力な投資対象として浮上。為替市場でもドルの変動の受け皿として資源国・新興国通貨も選ばれ易くなると、為替市場全体のバランスから、円はドルの変動の受け皿通貨としての役割が薄れてドルと連動し易くなり、安全通貨としての推移を強めて行ったとみられる。こうした動きは、世界的な低インフレ・低金利を背景とした、投資家による高い利回りを求める動きにも支援されたと考えられる。 ➢ また 2000 年代以降、世界的なインフレ率の低下などによる先行き不確実性の低下から、米株価と米金利がそれまでの大局的な逆相関から順相関に転じたことも、両者と逆相関にある円の安全通貨としての推移を支援した可能性がある。 ➢ 今後以上の要因が大きく崩れ、円の安全資産としての位置付けがすぐに大きく後退する可能性は現時点では小さいとみる。一方、最近みられつつあるグローバリゼーションの後退やインフレ高止まり長期化のリスクが万一大きく顕在化すると、2000 年代半ばに円が安全通貨としての推移を強める背景となった要因に影響が及ぶ可能性は否定できない。現時点では過渡的な段階とみられるが、特に2022 年初からは米株価と米金利の大局的な順相関が崩れる兆候もみられている。 ➢ 万一こうしたリスクシナリオが大規模に顕在化した場合、円の安全通貨としての推移が後退する事態にもなり得る点は留意しておく必要があろう

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