저하되는 유럽의 가스부족 리스크(23-2-9)/井上 淳.Mizuho Research & Technologie
<요약>
- EUではロシアからのガス供給が大幅に減少したが、その対応としてガス消費の削減が進んだ結果、例年より豊富なガス在庫を確保することができ、欧州のガス価格は下落(소비감소-재고확보-가격하락)
- 欧州がガス不足に陥るリスクは大幅に低下しており、メインシナリオでは2023年のガス価格は軟調な展開を予想。ただし、今後はアジアとの調達競争がガス高要因に
- ロシアのガス供給が停止するリスクケースについては、石炭火力発電の稼働率を上げることで対応可能だが、ガス価格は上昇。メインシナリオでも価格の水準は過去平均の3倍前後と高値
<내용>
1.下落が続く欧州ガス価格 欧州でガス価格の下落が続いている。(가스가격하락세지속)
天然ガス価格の代表的な指標であるTTF(Title Transfer Facility)をみると、昨夏には一時300ユーロ/MWhを超える局面もあったが、足元では50ユー ロ台まで値を下げている。 この間に、欧州のガス需給を取り巻く状況は、大きく変化した。最も顕著な変化は、ロシアへの依 存度が大幅に低下したことであろう。EUでは、ロシアからのガス輸入が従来の1~2割程度に減少して おり、年間消費量の4割程度を占めていたロシアへの依存度は足元で大幅に低下している。 そして、その対応として、欧州のガス消費量が急減したことも、この間の特筆すべき大きな変化であ った。さらに欧州がロシアに代わるガスの調達先を求めたことで、ガス市場のグローバルなつながり
が強まったことが3つ目の変化として挙げられよう。 欧州のガス高は2022年中から同地域の景気後退懸念を高める大きな要因になってきたが、足元のガ ス価格の下落によって、そうした懸念は和らぎつつある。このままガス高が終息していくのか否かは、 2023年の世界経済を展望するうえでの前提条件となる。以下では、上述したウクライナ侵攻後のガス 市場を巡る変化も踏まえ、今後の動向をみるうえで重要となる論点を整理する。
2.台頭する楽観論(낙관론 대두)
(1)ガス価格のピークアウトは、
LNG 輸入の拡大と急速な省ガスの結果 欧州ガス市場で楽観論が広まりつつある背景には、ガス不足に対する懸念が徐々に薄れてきている ことがある。その要因として、まず挙げられるのが、高水準を維持するEUのLNG輸入である。LNGの 輸入は2021年中からロシア産ガスの供給減少を補う形で増加傾向にあったが、ウクライナ侵攻が始ま った2022年はさらに増加し、年間を通して高水準を維持した。こうしたLNG輸入の拡大に よってロシア産ガスの減少のかなりの部分を相殺することができた。 ただし、LNG輸入の拡大だけは、ロシアからのガス輸入の減少をすべて補うことはできなかったの も事実である。2022年半ば以降のEUの天然ガスの輸入量は、LNG輸入を含めても、前年を下回る状況 が続いており、ロシアからのガス輸入が多かったドイツの落ち込みは特に顕著である。ドイツではロ シアからのガス供給が停止し、LNGの輸入も昨年12月にようやく始まったという状況であるため、ガ スの輸入量は従来の水準を大きく下回った状態が続いている(図表4)。 EU各国は、LNG輸入の増加でも補えなかった不足分について、ガス消費を抑制することで対応して いる。発電におけるガス火力の比率が低いフィンランドで大幅な削減を実現しているほか、それ以外 の国でも2022年の削減率は前年比で軒並み二桁のマイナスとなっている(次ページ図表5)。ロシア 産ガスの最大の輸入国であったドイツでも、同じ時期のガス消費は前年比▲15%と省ガスが進んだ。 特にEUが過去5年との比較で15%の削減を呼び掛けた昨年8月以降は、省ガスが一段と加速しており、
11月までの4か月間のドイツのガス消費量は、後述する天候要因もあり前年から2割以上減少している。 EUはロシアからの輸入減少に備えて、2022年11月初めまでにガスの貯蔵率80%を達成するという 目標を掲げていたが、こうした各国の省ガスが功を奏した結果、目標を2カ月前倒しで達成した(図表 6)。高水準のLNG輸入と省ガスの推進によって、十分なガス在庫を確保できたことが市場に安心感を 与えたのは、ガス価格の推移からみても間違いない。
(2)温暖な天候が省ガスをサポート(온난기후로 가스절감)
欧州のガス在庫は在庫目標を前倒しで達成した後も、ハイペースで増え続けた。例年であれば貯蔵 在庫が減少し始める11月に入っても、しばらくはガス在庫の増加が続き、最終的には貯蔵できる上限 近くまで積み上がった。また、11月も在庫の増加が続いたことで、在庫の取り崩しが始まる時期が後 ずれし、楽観論をさらに後押しすることになった。 こうした例年を上回る在庫の積み上がりは、秋口からの温暖な天候によるところが大きかったと推 察される。図表7(次ページ)は、日本の気象庁が公表している気温データであり、昨年10月下旬の欧 州の気温が例年に比べてどの程度乖離していたかを示している。これによると、欧州では昨秋の気温 が例年より、かなり高かったことがわかる。 そして、そのインパクトは大きく、例えばドイツの場合では、昨秋のガス消費の減少の3分の2まで が天候要因によるものだった可能性がある。これは、便宜的に、最もガス消費量の少ない8月の消費量 をその年の基礎的な消費、それを上回る部分を季節変動の影響を受けるガス消費と定義し、例年の消 費量と比較することで得られた結果である。ドイツでは、昨年の10月から11月にかけてガス消費の減 少率が特に大きかったが、このうち基礎的な消費量の変化によるものは3分の1程度に過ぎなかった。 残りの大部分は通常の季節変動では発生しないガス消費の削減、すなわち温暖な天候による省ガスに よってもたらされたと考えられる(次ページ図表8)。温暖な天候は、2023年初めも続き、ガス需給の 先行きに対する楽観論をさらに強めた。
(3)シミュレーション結果は再高騰リスクの低下を示唆(시물레이션결과 가격반등위험도 낮게나옴)
EUでは上述した省ガスの進展が市場に安心感を与えており、ウクライナ侵攻直後から欧州を覆って きた冬場のガス不足という懸念は急速に和らいでいる。実際、現在の需給環境を踏まえたシミュレー ションを行うと、今冬だけでなく、次の2023年から24年にかけての冬場についても、ガス在庫は安定 的に推移するとの結果が得られた(次ページ図表9・左図)。 ここでいう現在の需給環境とは、例えばロシアからEUへの天然ガス供給については、足元の状況と 同様に従来の1割強程度の低水準でガス供給が続くことを意味している。また、ガスの消費量について は、例年との比較でみた抑制率が2022年後半と同程度に維持されることを指す。今後も効率化や省力 化によって基礎的なガス消費の削減は続くとみているが、2022年の省ガスが急速だったことや天候要 因の剥落を考慮して、2023年は全体として省ガスの進行が一旦停止するとの想定である。日常生活や 経済活動において我慢を強いられていた部分が、効率化による省ガスに置き換わっていくという意味 でもガス消費の削減はペースダウンする可能性がある。 ただし、その後は再びガス消費量が緩やかに減少していくことを想定している。欧州委員会は、温 室効果ガスの55%削減(1990年対比)を目指す「Fit for 55」を掲げ、さらに昨年はそれを加速させて ロシアへの依存を早期に解消する「リパワーEU」計画を発表している。図表9のシミュレーションで も、ガス消費の削減が概ね「リパワーEU」に沿ったものになるように想定している。 今回は、EU全体を対象としたシミュレーションのほかに、ロシア産ガスの最大の輸入国であったド イツについても個別にシミュレーションを実施した。ドイツでは、ロシアからのガス輸入がすでに止 まっているものの、省ガスと新たに始まったLNG輸入の拡大によって、ガス在庫は安定的に推移する との試算結果が得られた(図表9・右図)。 市場における楽観論は、こうしたシミュレーションとも整合的であり、ガス価格が再び高騰するリスクが低下していることを示唆している。
3.楽観論に死角はないか(낙관론의 사각지대)
(1)ロシア産ガスが完全停止すれば、
需給がひっ迫する構図は変わらず 実際にはシミュレーションの想定以上にガスの消費量が抑えられる可能性もある一方、想定したほ どにはガス供給が確保できず、需給バランスがひっ迫することも考えられる。特にロシアからのガス 供給が現在の水準からさらに減少するケースは十分に考えられる。そこで、ロシアからのガス供給が 今後徐々に減少していき、2024年初には完全に停止 するような状況を想定して図表9と同様のシミュレ ーションを行った。結果は図表10に示した点線の通 りである。 ロシアからのガス供給は足元で2021年平均の1割 強に減少しているが、その1割強のガスが途絶えれ ば、ガスの需給バランスは崩れ、EUのガス在庫が 徐々に減少していく可能性があることを示してい る。すぐにガス在庫が底をつき、ガス不足が発生す るというわけではないとしても、需給はタイト化し、 ガス価格の上昇圧力が生まれやすくなると予想され る。 その影響は、すでにロシアからのガス供給が停止 しているドイツにも及ぶと考えられる。ロシアから の供給が完全に停止すれば、ロシア以外の産地の天然ガスに対する需要もそれだけ増えることになる ためだ。そうした場合には、省ガスをさらに前倒して進めるか、あるいはLNG輸入を増やすことでロ シア産ガスを代替するなどの対応が必要となる。
(2)アジアとの調達競争がガス高要因に ロシア産ガスの輸入停止は、
脱ロシアを目指すEUとしても速やかに進めたい施策である。ただし、 そのための方策として、すでに相当程度進んでいる省ガスをさらにペースアップするのは困難が予想 される。一方、LNG輸入については、2023年から新たな受け入れ施設が稼働予定であることから拡大 の余地がある。例えば、ドイツでは、FSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)の稼働によって、1~3月 期にLNGの輸入許容量が年間220億㎥程度になる予定である。1月のLNG輸入量は許容量の2割程度に とどまっているが、今後は徐々に増加するとみられる。 ただし、LNGの輸入が許容量と同じだけ拡大できるとは限らない。IEAは、2023年のLNG供給につ いて、世界全体で230億㎥拡大するとしているが、LNG調達でアジアと競合する欧州が、そのすべてを 獲得できるわけではないだろう。そこで留意しなければならないのが、中国の存在である。中国では 景気減速によって2022年にLNG輸入が約210億㎥減少したが(図表11)、2023年はゼロコロナ政策の 解除によって景気が上向くため、LNGの輸入も増加する可能性が高い。IEAは、昨年12月に出した試 算の中で、2023年は中国のLNG輸入が増加するため、欧州のLNG輸入は70億㎥程度の増加しか見込め ないとしている。図表9のシミュレーションでは、ドイツのLNG輸入が今後徐々に増加し、2024年初 めには許容量の5割程度まで増加することを想定しているが、これはIEAの想定を若干下回る輸入量で ある。 図表12では、LNG輸入の増加が図表9の半分しか達成しなかった場合の試算を点線で示している。 ロシアからのガス供給が途絶えたドイツでは、LNGの拡大が省ガスとともに極めて重要であることが わかる。そして、仮に必要量のLNGが輸入でき、ガス不足を回避することができたとしても、必要量
を確保するための調達競争はLNG価格を押し上げる要因となる。また、ガスの需給バランスが辛うじ て保たれるような状況では、欧州域内や北アフリカから供給される天然ガスについても、価格を押し 上げる圧力が生まれやすい。
4.ガス価格の再高騰リスクは低下したが、高値圏での推移が続く可能性に留意
上述してきたように、今回行ったシミュレーションをみると、需要と供給の各要因について、現在 の状況が維持される限り、欧州のガス不足は回避できる可能性が高い。その結果、欧州のガス価格が 再び高騰するリスクは低く、シミュレーションが示した需給環境(在庫率)からは、2023年のガス価 格は軟調な推移になることが示唆される。それが2023年のメインシナリオである。 その一方で、ウクライナ侵攻が長期化し、欧州の対露制裁が一段と強化されるなかでは、ロシアが EUに供給している天然ガスを完全に停止する可能性がある点は変わっていない。その場合には、2023 年から24年にかけての冬場にガス需給がひっ迫するリスクがあるが、すぐにガス在庫が枯渇するわけ ではない。冬場の需要期を迎える前にLNG輸入を増やすことができれば、状況を改善することは可能 だ。 しかし、アジアとの調達競争にさらされるなかでは、LNG輸入の急激な増加は見込めない。現実的 には一時的な措置として、ガスによる発電の一部を石炭火力で代替することが想定される。欧州で進 展する省ガスは、主に産業用や家庭用など、発電以外の部分で進んでいるとみられる。その一部は、 製造業が生産活動を抑制して実現している部分もあると考えられる。その一方で、発電用のガス需要 については、ガス火力の発電量を見る限り(図表13)、産業用・家庭用などほどには変動していない。 ロシアからEUへのガス供給が現状程度の水準で維持される場合、2023年の供給量は200億㎥強となる。 それを石炭火力発電で代替するには、2021年に45%であった石炭火力発電の稼働率を54%に上昇され ば良いと試算される。 繰り返しになるが、ロシアからの供給が停 止した場合やLNG輸入で必要量を確保でき なかった場合であっても、試算上は石炭火力 の拡大によって窮地を脱することができる。 ただし、脱炭素を進めるEUにしてみれば、石 炭への代替は極力抑えたいはずだ。ガスの不 足分を石炭で代替したとしても、ガス需給が 大幅に改善するとは限らず、当然ガス価格も 上昇する可能性が高い。 軟調な推移が予想される2023年のメイン シナリオについても、LNG調達を巡るアジア との競合を考えれば、ガス価格は2016年か ら2020年にかけての平均価格(15ユーロ /MWh)までは低下しないとみている。2023 年2月上旬時点において50ユーロ台で推移しているTTF(翌月物)は、2023年後半には40ユーロ台で推移すると予想するが、それでも過去の平均 価格(15ユーロ/MWh)と比べれば、3倍前後の高値が続くことになろう。
[参考文献]
井上 淳(2022)「欧州ガス高は2023年も継続」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2022年 8月15日
小林・山本・江頭・川畑・井上(2022)「欧州エネルギー危機と経済への影響 ─今冬のガス不足は回避可能だが、リセ ッションは免れず─ 」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほリポート』、2022年9月29日
吉沼 啓介(2022)「ロシア産化石燃料依存からの脱却へ ―気候変動対策から安全保障への転換(3)-」 (https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2022/0802/f16b356bd78d892f.html)、日本貿易振興 機構、2022年9月1日
EUROPEAN COMMISSION(2022a),“REPowerEU: Joint European Action for more affordable, secure and sustainable energy”, 2022/3/8
EUROPEAN COMMISSION(2022b),“REPowerEU Plan”, 2022/5/18
IEA(2022),“How the European Union can avoid natural gas shortages in 2023”, 2022/12/12