정책칼럼

보유차량의 그린化-금융위기시 폐기 인센티브 정책 분석(23.3月)/北野 泰樹(青山学院大).RIETI연구소

jn209 2023. 3. 8. 11:39

=Greening Vehicle Fleets: A structural analysis of scrappage programs during the financial crisis=

Abstract

Vehicle scrappage programs (SPs) have been a common policy tool to replace aged and/or fuel-inefficient vehicles with fuel-efficient ones, recently adopted to make national vehicle fleets greener. This study evaluates the impacts of the SPs by examining the Japanese private passenger vehicle market in which the government allocated the second-largest program expenditure during the financial crisis. The evaluation is conducted based on the structural model of oligopolistic competition in the presence of the SP, which is estimated using marketlevel sales, price, and attribute data for each car model from FY2006 to FY2009. To conduct the structural analysis, this study develops a simple method to estimate the demand side in the presence of the SP, which incorporates data on aggregate program outcomes such as the program expenditure in the estimation of the discrete choice models. Given the estimates of the structural model, I simulate counterfactual outcomes under alternative SP designs and discuss program designs that could cost-effectively improve the environmental quality of vehicle fleets, considering the welfare and fiscal stimulus impacts.

 

Keywords: scrappage program; passenger vehicle market; attribute-based subsidy; structural estimation; discrete choice model; Japan

 

脱炭素に向けた取り組みの中で、輸送部門のグリーン化は欠かせない。スクラップ・インセンティブ政策(Scrappage Program, 以下SP)は、環境性能の劣る自動車(高燃費車、経年車など)の廃車を条件に、燃費などの用件を満たす新車の購入を補助する制度である。 SPは、新車市場で低燃費車の購入を支援することによる脱炭素化だけでなく、環境性能の劣る自動車の廃車を伴うことで、保有車両全体での脱炭素化に貢献しうる。

本研究では、金融危機下に導入された2009年の日本のSPである「環境対応車への買い換え・購入に対する補助制度」を分析する。金融危機下では日本を含めた世界各国でSPが導入されたが、その制度設計は各国で異なっていた。本研究では、各国で異なる制度設計に着目し、経年車の廃車数、新車の平均燃費といった環境効果を効率的に改善するSPを設計するのに有用なエビデンスを示すことを目的とする。

 

本のSPと注目する制度設計

2009年4月から、一度の延長を経て2010年9月まで有効であった日本のSPでは、車齢13年以上の自動車(経年車)の廃車を条件に、2010年度燃費基準を満たす普通車(軽自動車)の購入に対して25万円(12.5万円)の補助金が拠出された。

本研究で影響を分析する日本と他国で異なるSPの設計は、以下の二点である。

① 補助金対象となる新車の基準:属性基準と一様基準
2010年度燃費基準では、車両重量に応じて燃費の基準値が定められている。このように属性(重量)に応じて変動する基準値の設定を属性基準(attribute-based criteria)と呼ぶ。それに対し、属性によらず、CO2排出量などで一定の基準を採用する国(フランスなど)もあった。このような基準値の設定を一様基準(uniform criteria)と呼ぶ。

② 補助金費用の負担:企業負担の有無
日本を含む多くの国では、補助金は全て政府により拠出された(企業負担ゼロ)が、EUの5か国では、販売された自動車を製造する企業に補助金費用の負担を求めていた。(例:UKの企業負担は50%。つまり、補助金額2000ポンドのうち1000ポンドが企業負担)

 

ノンテクニカルサマリー

 

分析結果と政策インプリケーション

分析では、①属性基準と一様基準の下での市場成果、②異なる企業負担割合で実現する市場成果、を構造推定モデルに基づくシミュレーションにより導出し、総補助金支出額が異なる設計間で等しくなるよう調整した費用効果分析に基づいて、その環境効果を評価した。

分析から得られた政策インプリケーションは以下の三点である。

(1) 属性基準下と一様基準下の環境効果(廃車数の増分:ΔScrap、新車の平均燃費の増分:ΔAFE)は図1にまとめられている。図の棒グラフで示される通り、一様基準は属性基準と比較してより多くの経年車の廃車を促す。属性基準の燃費の閾値を5%、10%と引上げ、それと対応する一様基準を比較すると、閾値を引き上げることで廃車台数の基準間の差は大きくなる。一様基準の場合、閾値を高くすることで新車の平均燃費も改善する。つまり、環境効果を重視する場合、一様基準を採用し、高い閾値の設定が望ましい。

ただし、論文内では、厚生効果(消費者・生産者余剰)などは閾値の引上げにより減少することが示されている。つまり、一様基準を採用する場合、その閾値は環境効果・厚生効果間のトレードオフを考慮した設定が必要となる。

(2) なお、図1が示すように、属性基準の場合、+15%の水準までは閾値の増加により平均燃費を改善する。特に、+15%の水準だと、廃車の数を抑えつつ平均燃費を改善していることがわかる。これは、SPの有無によらずに買い替えを行う経年車の所有者の選択を、より低燃費の車種にシフトさせたことを意味している。つまり、属性基準では、廃車数が少ない、つまり販売台数の増加を抑えつつ、平均燃費の改善を促せるのである。

廃車を要件としない補助金の場合、販売台数の増加は必ずしも廃車を伴わないため、保有車両数を増大させうる。その結果、新車の平均燃費が改善したとしても、CO2排出量は(保有車両数の増大に伴い)増加するかもしれない。したがって、販売台数の増加を抑えつつ平均燃費の改善を促す属性基準は、廃車を伴わない補助金に適している可能性がある。

 

分析結果と政策インプリケーション

分析では、①属性基準と一様基準の下での市場成果、②異なる企業負担割合で実現する市場成果、を構造推定モデルに基づくシミュレーションにより導出し、総補助金支出額が異なる設計間で等しくなるよう調整した費用効果分析に基づいて、その環境効果を評価した。

分析から得られた政策インプリケーションは以下の三点である。

 

(1) 属性基準下と一様基準下の環境効果(廃車数の増分:ΔScrap、新車の平均燃費の増分:ΔAFE)は図1にまとめられている。図の棒グラフで示される通り、一様基準は属性基準と比較してより多くの経年車の廃車を促す。属性基準の燃費の閾値を5%、10%と引上げ、それと対応する一様基準を比較すると、閾値を引き上げることで廃車台数の基準間の差は大きくなる。一様基準の場合、閾値を高くすることで新車の平均燃費も改善する。つまり、環境効果を重視する場合、一様基準を採用し、高い閾値の設定が望ましい。

ただし、論文内では、厚生効果(消費者・生産者余剰)などは閾値の引上げにより減少することが示されている。つまり、一様基準を採用する場合、その閾値は環境効果・厚生効果間のトレードオフを考慮した設定が必要となる。

 

(2) なお、図1が示すように、属性基準の場合、+15%の水準までは閾値の増加により平均燃費を改善する。特に、+15%の水準だと、廃車の数を抑えつつ平均燃費を改善していることがわかる。これは、SPの有無によらずに買い替えを行う経年車の所有者の選択を、より低燃費の車種にシフトさせたことを意味している。つまり、属性基準では、廃車数が少ない、つまり販売台数の増加を抑えつつ、平均燃費の改善を促せるのである。

廃車を要件としない補助金の場合、販売台数の増加は必ずしも廃車を伴わないため、保有車両数を増大させうる。その結果、新車の平均燃費が改善したとしても、CO2排出量は(保有車両数の増大に伴い)増加するかもしれない。したがって、販売台数の増加を抑えつつ平均燃費の改善を促す属性基準は、廃車を伴わない補助金に適している可能性がある。

図1:属性基準と一様基準の下での経年車廃車数・平均燃費

注:横軸は属性基準での閾値(2010年度燃費基準+0%から+25%)。廃車数の増分(ΔScrap)と平均燃費の増分(ΔAFE)はSP無しにおけるそれぞれの値との差分。
 

(3) 一様基準の場合、閾値を高く設定することで、経年車の廃車数を増加させるが、その増分はわずかである。一方、補助金費用の企業負担の導入は、経年車の廃車を大きく促進しうる。経年車の廃車数は企業負担の割合を(0-50%の範囲で)大きくするほど増加し、例えば企業の負担分を50%とすると、企業負担がゼロのケースと比較して50%ほど増加する。ただし、新車の平均燃費は負担割合が大きいほど下落し、厚生効果なども減少する。よって、SPの政策設計に際しては、廃車数に対する正の影響とその他の効果に対する負の影響、これらトレードオフを考慮した上で企業負担の導入及びその負担割合を考える必要がある。

 

 

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