目 次
1.はじめに
2.わが国出生数の動向
3.出生数急減の要因
(1)若い世代で進む出生意欲の低下
(2)出生意欲の低下をもたらす要因
4.収束傾向にある欧州諸国のTFR(合計特殊出生率)
(1)少子化対策先進国でTFR低下
(2)出生率が収束する要因
(3)ドイツの状況
(4)ドイツからの示唆
5.欧州の動向からのわが国へのインプリケーション
6.おわりに
要 約
1.2015年に約100万人であったわが国の出生数(日本人)は、その後、年率▲3.5%のペースで急減し、 2021年には81万人まで減少した。
2.出生数減少の要因を、人口、婚姻率、有配偶出生率に分解すると、2016年以降に出生数減少の加速 をもたらしたのは、有配偶出生率の低下である。有配偶出生率は、2015年までは出生数の押し上げ要 因であったが、その後は押し下げ要因となっている。
3.国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査によれば、若い世代の結婚・出産に向けた意欲(出 生意欲)の低下は明らかである。2021年の調査結果では、結婚意思のある未婚男女の希望子ども数が、 2015年の前回調査から大きく低下した。とりわけ女性の出生意欲の低下は明らかで、希望子ども数は 男性を下回る1.79人となった。
4.足元で進む若い世代の出生意欲の低下の一因に、経済・雇用環境の悪化がある。理想子ども数まで子 どもをつくらない夫婦(妻の年齢が30 ~ 34歳の夫婦)の8割が、「子育てや教育に金がかかりすぎる」 としている。
5.大卒の男性正規職員の実質年収をみると、1960年代に生まれた世代に比べて、1970年代に生まれ た団塊ジュニア世代が属する40歳代後半の平均年収は150万円程度少なく、それ以降の世代でもほと んど回復がみられない。女性では、非正規で働く女性未婚者の36%が、自ら子どもを産む人生をイメー ジできないとしている。
6.近年、出生率が低下する国が目立つ欧州の中で、ドイツは2012 ~ 2016年に出生率・出生数が顕著 に上昇した。これは、2000年代後半から保育サービスの充実や家族政策の見直し等、積極的な少子化 対策が功を奏した面がある。こうした政策面以外にも、良好な経済・雇用環境によって若い世代の暮ら しぶりが安定し、EU内外から移民が増え、さらには、1960年代のベビーブーマーの子ども世代が出 産期を迎えたことにより年齢構成が若返ったことなども、出生率改善の一因であった。
7.欧州の状況からうかがえるわが国の少子化対策へのインプリケーションは、
①少子化対策は総合政 策との認識、
②持続性ある政策、
③若い世代の経済・雇用の改善、
④家族向けの社会支出の増額と財源 の議論、
などが重要であるということである。
賃上げや雇用の正規化などによって若い世代の暮らし をあらゆる側面からサポートし、絶えず「よりよい未来を提示」することが不可欠となる。
8.わが国では、毎年安定して120万人の出生数があった1990年代生まれの世代が出産期に当たる今後 10年間が、少子化にブレーキをかけるラストチャンスである。
2030年頃までの期間に、総力戦で少子 化対策に取り組むことが必要である。